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広島地方裁判所 昭和56年(ワ)1571号 判決

原告

内場隆一

被告

寺坂活魚株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金四〇五万七七〇六円及びこれに対する昭和五六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自八〇〇万円及びこれに対する昭和五六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五六年八月二一日午後三時四〇分ころ

(二) 場所 広島市西区井口一丁目一六番三二号付近の西広島バイパス自動車専用道路上

(三) 加害車 大型貨物自動車(福岡一一や七五一七号、以下「被告車」という。)

右運転者 訴外出口正文

(四) 被害車 自動二輪車(品川も四八一五号、以下「原告車」という。)

右運転者 原告

(五) 態様 原告が、原告車の六メートル前方を二列に並んでゆつくり走つている大型貨物自動車を追越すため、加速して路側帯に入つたところ、約三〇メートル前方に被告車が駐車していることを発見し、直ちに急制動をかけたが、原告車は転倒し滑走しながら被告車に衝突し、原告は、横転して斜面に放り出された。

2  責任原因

(一) 被告車は、被告寺坂活魚株式会社が所有するものであるが、被告博多商産株式会社がこれを使用借りし、同被告会社の従業者である出口正文が運転していた。

(二) 本件事故は、出口運転手が被告車を駐停車禁止場所である路側帯に違法駐車させていたために生じたものである。すなわち、

本件事故現場付近には、幅員二・八メートルのかなり広い路側帯が設けられているが、元来本件西広島バイパスは、自動車専用道路であるから、所々に設けられたサービスエリアや非常駐車帯以外の場所に駐停車することは全面的に禁止されており、故障その他やむを得ない場合以外は路側帯に駐停車することは許されないものである。

しかるに、被告車の出口運転手は、小用を足すためと被告車の水槽から排水するために、路側帯に被告車を駐車させていたものであるが、サービスエリアが本件事故現場の六キロメートル前方に設けられていることに照らしても、同運転手が被告車を路側帯へ駐車するにつき、やむを得ない事由があつたと言えないことは明らかである。

しかも出口運転手は、自動車運転者として、自動車専用道路における違法駐車が後続車に与える危険性を充分予見できたにもかかわらず、駐車に際し、ウインカーなどで駐車していることを後続車に知らせる措置を何らとらないまま、漫然と駐車した。原告が、被告車の本件路側帯上での違法駐車を全く予想しないまま、追越しのため、原告車を路側帯上を走行させたことにつき、原告には過失はないものというべきであつて、出口運転手の重大な過失に基づく被告車の違法駐車と本件事故との間には、相当因果関係がある。

3  損害

(一) 原告は、本件事故のため、右腎破裂、肝破裂、第三、五腰椎横突起骨折、第三、五腰椎棘突起骨折の傷害を受け、五一日間入院加療したが、右腎摘出の後遺障害を残すことになつた。

(二) 右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 治療代 二八万円

国民健康保険による入院治療代の原告負担分は、前記金額である。

(2) 付添費用 一五万三〇〇〇円

五一日間の入院中、毎日原告の母が付添つたので、家族付添費一日三〇〇〇円で計算する。

(3) 入院雑費 五万一〇〇〇円

(4) 逸失利益 三五一〇万五七八五円

原告(昭和三四年一〇月二四日生)は、日本体育大学体育学科在学中の学生であるが、本件事故により右腎摘出の後遺障害を残すことになつたもので、これは後遺障害別等級表第八級一一号に該当し、原告は、労働能力の四五パーセントを喪失したことになる。

原告は、症状固定時(昭和五六年一〇月一〇日)、二一歳であるから、就労可能年数は四六年であり、賃金センサス昭和五二年第一巻第一表大学卒業者の平均年収三三一万四九〇〇円を基礎に、ホフマン係数二三・五三四を用いて右後遺障害による逸失利益の現価を求めると、三五一〇万五七八五円となる。

(3,314,900円×0.45×23.534=35,105,785円)

(5) 慰謝料 五〇〇万円

体育の教師を志望する原告にとり、右腎摘出の後遺障害は、大きな負担として残るものであり、四〇〇万円をもつて慰謝するのが相当である。

また五一日間の入院及び手術については、一〇〇万円をもつて慰謝するのが相当である。

(6) 弁護士費用 八〇万円

被告らからは一度の見舞もなく、原告の退院後、その両親が福岡市の被告らの住所に赴き話し合いを求めたところ、「こつちは被害者だ。何を因縁をつけるか。」と怒鳴りつける有様であつたので、原告は、本訴提起を余儀なくされたものであるから、被告らの負担すべき弁護士費用としては、本訴請求の一割に当る八〇万円が相当である。

4  よつて、原告は、被告らに対し、各自、前記損害合計四一三八万九七八五円の内金である八〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実のうち、(五)は争い、その余は認める。

本件事故の態様は、後記4(被告らの主張)に記載のとおりである。

2  同2の事実のうち、(一)は認める。(二)のうち、本件西広島バイパスが自動車専用道路であり、故障その他やむを得ない場合以外は、一般に路側帯に駐停車することが禁止されていること、本件事故現場付近には、幅員約二・八メートルの路側帯が設けられており、出口運転手が、小用を足すために被告車を路側帯に駐車させたことは認めるが、その余は否認する。

3  同3の事実のうち、(一)は認める。(二)の損害額は争う。原告の主張金額は余りに過大である。

4  被告らの主張

本件事故は、原告の一方的過失によつて生じたものであるから、被告らは、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき義務を負わない。すなわち、

被告車の出口運転手は、西広島バイパスにおいて被告車を運転中、生理的に尿意を催し、やむを得ず路側帯に被告車を駐車したものであるから、その駐車場所は、路側帯内であつて、他の交通の妨害になるようなことはなく、且つ後続車が被告車の駐車していることを容易に判別できる場所であり、その駐車時間も前後三分間位の短時間であつた。

本件事故現場は、鈴が峰トンネル出口から直線で三三九メートルの地点で、前方の見通しは極めて良好である。

しかるに原告は、本件道路を進行中、前方に大型車が二台並列して進行しているため、前方の見通しが困難であつたにもかかわらず、これを追越すため、時速五〇キロメートルを更に加速し、一般に車両の進入が禁止されている路側帯に敢えて進入して本件事故にあつたものであり、原告が、前方の見通しを充分確保しながら前車の追越にかかつておれば、本件事故は発生しなかつたはずであるから、本件事故の原因は、原告の無謀且つ不適切な追越にあると言わなければならない。

しかも、原告が、路側帯に進入した後直ちに被告車を発見し、適切な急制動の措置を講じていたならば、被告車の手前で停止することができ、本件追突事故を回避できたのに、原告は、高速で進路を急に左方に変更したため、被告車の約二一メートル手前で既に原告車を横倒しにしてしまい、原告車の操縦の自由を完全に失つてしまつた結果、原告車が被告車に追突する直前、危険を感じて原告車から飛び降り、その際ガードレールに衝突して重傷を負つたものである。

仮に、出口運転手が被告車を路側帯に駐車させたことが違法であつたとしても、それは道路交通法違反のとがめを受ける限度での違法にすぎないものであつて(実際には、出口運転手は、本件駐車に関し何らの処罰も受けていない。)、当然には本件事故の過失とはならない。

本件事故は、原告が本来車両の通行が許されていない路側帯を進行した結果発生したものであり、出口運転手には本件事故発生につき予見可能性は全くなく、したがつて同人に過失はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実のうち、昭和五六年八月二一日午後三時四〇分ころ、広島市西区井口一丁目一六番三二号付近の西広島バイパス自動車専用道路上の路側帯において、原告が、自車前方の大型車を追越すため、原告車を路側帯に進入させたところ、訴外出口正文運転手が被告車を同路側帯に駐車させていたため、原告車が被告車に衝突するという事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様とその原因について、更に詳細に検討する。

1  右争いのない事実に、成立に争いのない甲第四号証、第五、第六号証の各一、二、第一〇号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証、本件事故現場を撮影した写真であることにつき当事者間に争いのない甲第七号証の一ないし一六、弁論の全趣旨により被告車と同型の大型貨物自動車を撮影した写真であると認められる乙第二号証、証人内田浩、同出口正文の各証言及び原告本人尋問の結果の一部(後記採用できない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次のような事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果の一部は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

(一)  本件衝突事故現場は、西広島バイパス下り線(西行き車線)を、鈴が峰トンネルの西側出口から西へ更に約三二九・五メートル進んだ地点の路側帯上である。

同バイパス下り線は、右トンネル西側出口から本件事故現場までの間は、ほぼ直線状に延びており、幅員各三・五メートルの車両通行帯が二車線(以下、進路に向つて左側の車両通行帯を「走行車線」と、同右側の中央分離帯寄りのそれを「追越車線」と、それぞれ呼称する。)と走行車線の左側に幅員二・八メートルの路側帯が設けられており、その左端にガードレールが設置されていて、右トンネル出口付近から本件事故現場までの見通しは良好である。

(二)  原告は、本件事故当時、日本体育大学二年生であり、事故当日は、夏休みを利用しての観光旅行のため、東京方面から原告の実家(広島市西区井口二丁目二二番三一号所在であつて、本件事故現場の南西約五〇〇メートルに位置している。)を訪れていた学友の内田浩と安達俊成を案内して、各自自動二輪車に分乗して、原告の実家から同市中区所在の平和公園へ行き、見物を済ませた後、原告の先導で右バイパスを通つて一旦原告の実家へ帰る途中であり、本件事故がなければ、原告らは、引続き宮島まで足を延ばす予定でいた。

(三)  本件事故現場にさしかかる前ころ右三名は、原告が先頭で走行車線を、内田が原告車より二、三台遅れ、原告車の約五〇メートル後方の追越車線を、また安達が内田の三台位後を(どの車線を走つていたかは不明)、それぞれ時速約五〇キロメートルで走つていたところ、原告車のすぐ前方には、走行車線、追越車線のいずれにも、荷台の高い大型貨物自動車が走つていたが、これらの大型車は、ほとんど一線に並んだまま原告の視野をさえぎるような形でゆつくり並進しており、次第に原告車との車間距離が縮まつていくうち、原告は、これら大型車を追越してその前に出ようと思うようになつた。

(四)  別紙交通事故現場見取図に示したように、原告車が鈴が峰トンネル西側出口から約二九三メートル進んで〈1〉の地点に来た時、走行車線を先行する大型車〈A〉との車間距離は約六メートルになつており、その右側の追越車線をもう一台の大型車〈B〉が走つていたが、原告は、〈A〉と〈B〉の間を追抜くことも、〈B〉の右側を通つてこれを追越すことも困難であると考え、路側帯を進行して〈A〉の左側からこれを追越そうと決心した。

そして原告は、自動車専用道路では、サービスエリアや非常駐車帯以外の場所での駐停車は原則として禁止されているのであるから、自己の進路前方の路側帯に駐停車しているような自動車はいるはずがないと決めこみ、進路前方の安全を全く確認しないまま、〈1〉から加速してハンドルを左に切り、路側帯内の〈2〉に進入した。その瞬間、原告は、前方に被告車〈ア〉が駐車しているのを発見したが、原告が加速したため、追越そうとした大型車〈A〉と原告車とがほとんど並進するような位置関係になつていたため、原告は、自車の前方も右方も塞がれてしまつたと感じ、とつさに急制動の措置をとつた。すると原告車は、約六メートル空走した後ブレーキがきき始めたが、間もなくスリツプして車体が横倒し状態となつてしまい、約一〇メートルの間はブレーキがきいたものの、その後は原告においてハンドルやブレーキ操作をすることができなくなり、チエンジベダルなどを路面にこすりながら路側帯上を滑るようにして進み、〈×〉の地点で被告車と衝突したうえ、被告車の車体の下にもぐりこみ〈3〉の地点で停止した。

この間原告は、途中で原告車から投げ出されてしまい、路側帯上を転がつたうえ、ガードレールにぶつかりながらもこれを越え、その左脇の草地の〈4〉点付近に転げ出て倒れた。

なお、本件事故当時原告が運転していたのは、排気量四〇〇ccの自動二輪車であり、原告は、昭和五五年一一月ころ自動二輪車の運転免許を取得したもので、本件事故までの運転経験は約九か月であつた。

(五)  ところで被告車は、魚を生きたまま運搬するための水槽をその荷台上に設備してある大型貨物自動車であるが、被告車の出口正文運転手は、事故当日、九州方面から運搬してきた生魚を広島市中区三川町所在の新天地活魚センター(同センターが、本件事故現場から直線距離で約七・五キロメートル離れており、且つ後記西広島バイパス下り線入口から陸路約四・八キロメートルの所に位置していることは、当裁判所に顕著な事実である。)で下ろし、水槽の水を大部分抜いたうえ、西広島バイバスを通つて九州方面に帰る途中、前記見取図〈ア〉点に被告車を駐車させた。

自動車運転者は、昼間自動車専用道路上に駐停車するときは、後方から進行してくる自動車の運転者が見やすい位置に停止表示板を置くべきことを義務づけられているのに(道路交通法七五条の一一第一項、同法施行令二七条の六)、出口運転手は、後続車の運転手らに対し、被告車が前記〈ア〉の位置に駐車していることを知らせるための停止表示板を被告車の後方路側帯上に置くことをせず、また被告車のウインカーを点滅させるなど後続車の運転者らの注意を喚起するための措置(本件事故現場付近の路側帯の幅員は二・八メートルと比較的広いため、後記のように、路側帯上を進行することは違法とされているにもかかわらず、追越のため路側帯上を走る運転車が間々あることが認められる。したがつて、出口運転手としては、路側帯上を進行してくる後続車があることを予見できたというべきであるから、後続車の危険防止の措置を講ずべきであつた。)を何らとることもないまま、漫然と被告車から降り、その付近で小用を足した後、被告車の水槽から残り水を路上に排出しているうちに、本件事故にあつたものである。

(六)  西広島バイパスは、広島市西区庚午北二丁目の同バイパス下り線入口から広島県佐伯郡廿日市町所在の七尾中学校前付近までの全長約一一・八キロメートルの区間が自動車専用道路に指定されているのであるが、この区間のうち、右下り線入口から約一・三キロメートル進んだ古江バス停留所付近(本件事故現場の手前約二・九キロメートル付近)に第一の非常駐車帯が設けられており、同非常駐車帯から更に西へ約五・五キロメートル進んだ落合バス停留所付近(本件事故現場を通過後約二・六キロメートル進んだ所)に第二の非常駐車帯が開設されている。

そうすると、仮に同バイパス下り線に入つた後交通渋滞のないまま平均時速四五キロメートル(秒速一二・五メートル)で走つたとすれば、自動車運転者は、入口通過後約一分四四秒で第一の非常駐車帯に到達し、その後約七分二〇秒で第二の非常駐車帯に達することができるのであるから、右七分余の短時間内に、途中の路側帯上に駐車してまで小用を足さなければならない程の急激な生理的変化が生ずることは、ほとんど絶無に等しいと推認することができる。

2  右認定の事実を総合して、更に本件事故について検討するに、まず、道路交通法は、その七五条の八第一項において、自動車専用道路においては原則として駐停車禁止であり、路側帯に十分な幅員がある場合でも、路側帯に駐停車することができるのは、故障その他の理由により駐停車することがやむを得ない場合に限られるべきことを規定し、これに違反したものについては罰則(同法一一九条の二第一項二号)をもつて臨んでおり、また同法七五条の一〇第一項では、自動車の運転者に対し、自動車専用道路において運転しようとするときは、あらかじめ、燃料、貨物の積載の状態等を点検すべきことを義務づけ、その違反に対しても罰則(同法一一九条一項一二号の四、同条二項)の定めをおいているのであり、その法意は、大量の自動車が高速で通行することが予定されている自動車専用道路に駐停車した場合は、非常に危険性が高く、円滑な交通の妨げとなるので、自動車専用道路における駐停車を極力抑制し、もつて同道路本来の効用を発揮させようとするにあると解されるところ、右のような同法の趣旨及び前記(六)で認定の西広島バイパスにおける非常駐車帯の設置状況からみて、本件において出口正文運転手が被告車を本件事故現場に駐車させるについて、やむを得ない事由があつたものと認めることはできず、しかも同運転手が同法七五条の一一所定の措置を講じていたならば、本件事故の発生は避けられたものと推認することができるのであるから、出口運転手の前記違法駐車が本件事故発生の原因の一つになつたことは明らかであり、したがつて、同運転手は、本件事故につき一端の責任を負うべきである。

しかしながら、自動車は、車道と路側帯の区別のある道路においては、車道を通行しなければならないものであり(同法一七条一項本文、一一九条一項二号の二)、また他の車両を追越すときは、その前車の右側を通行すべきである(同法二八条)から、本件において原告がとつた追越の方法が違法であることも明白である。

しかも、例外的であるにせよ、自動車専用道路においても、故障その他やむを得ない事由から路側帯に駐車する場合があり得るのであるから、本件のように、敢えて路側帯に進入して前車を追越そうとするのであれば、原告としては、まず一旦路側帯に出てから、自己の進路前方の安全を確認し、その後に加速して追越をはかるべきであつて、進路前方の安全を確認しないまま、いきなり走行車線から加速して路側帯に進入した原告の行為には、重大な過失があつたと言わざるを得ない。

更に本件では、原告が被告車を発見したのは、被告車の手前約三一メートルの地点であつたのであるから、原告が適切なハンドル操作やブレーキ操作をしていたならば、被告車に追突することなく、その手前の路側帯上で停止するなり、原告が追越そうとした前記〈A〉の大型貨物車をやり過ごして再び原告車を走行車線にもどすなりして、本件事故の発生を回避することができた余地が多分にあつたものと推認することができる。

以上のような諸事情を総合勘案するならば、本件事故は、被告車の出口運転手の違法駐車と原告の追越不適切(路側帯進入、安全不確認)及びハンドル操作ないし急制動措置の不適切の過失とが競合してひき起こされたものと言うべきであり、出口運転手の過失と原告の過失の割合は、一五対八五であると評価するのが相当である。

三  被告車が被告寺坂活魚株式会社の所有であり、被告博多商産株式会社が被告車を使用借りし、同被告会社の従業員である出口正文がこれを運転していたことは当事者間に争いがない。

そうすると、本件事故は、原告の一方的過失によつて生じたものではなく、前述のとおり、原告の重大な過失と被告車の出口運転手の過失とが競合して発生したものであるから、被告らは、各自、原告が本件事故によつて蒙つた損害の一五パーセントを原告に賠償すべき義務を負うことになる。

四  そこで次に、本件事故により原告の蒙つた損害について判断する。

1  原告が、本件事故のため、右腎破裂、肝破裂、第三、五腰椎横突起骨折、第三、五腰椎棘突起骨折の傷害を受け、五一日間入院加療したが、右腎摘出の後遺障害を残すことになつたことは当事者間に争いがなく、右事実に、成立に争いのない甲第三号証の一、二、第八号証の二、第九号証、第一一号証の一ないし六及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次のような事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、本件事故直後、一旦は事故現場近くの喜多村外科医院に収容されたが、直ちに県立広島病院へ転送され、同日から同年一〇月一〇日まで同病院に入院して右腎摘出、筋・腱縫合手術を受け、ギブス固定のうえ安静療養を続け、前同日退院後は同年一一月二〇日までの間及び昭和五七年一月一一日から同月一四日までの間、前述の実家から同病院に通院して治療を受けた。

(二)  原告の右入院中は、歩行困難のため、原告の母が毎日原告に付添つていた。

(三)  原告は、昭和三四年一〇月二四日生れの健康な男子で、本件事故当時、日本体育大学二年在学中であり、将来体育科の教諭になる希望を抱いて、勉学や自転車クラブでの練習をしていたものであるが、本件事故により、前記のように右腎を摘出し左腎だけになつたほか、右大腿直筋断裂、肩の関節を傷めるなどの傷害を受けた結果、長距離走や自転車競走などの激しい運動は差控えざるを得なくなつたうえ、野球など投球を伴う球技もできなくなり、その脚力も低下したものの、原告の日常生活に支障を生ずるような特段の障害は残つていない。

(四)  本訴提起前に原告の両親が各被告会社事務所を訪れ、損害賠償について話し合おうとしたが、被告らは、本件事故は原告の一方的過失により生じたものであり、被告会社の方こそ被害者であるとの立場をとり、右話し合いは全く進展しなかつた。

2  そこで、以上のような事実を前提に、損害の額について以下順次判断する。

(一)  治療代 二六万二六五六円

前掲甲第一一号証の一ないし六によれば、原告の前示治療のため合計二六万二六五六円の治療費を要したことが認められる。

(二)  付添費用 一五万三〇〇〇円

原告の母が原告の入院中付添に要した費用は、一日につき三〇〇〇円、合計一五万三〇〇〇円が相当であると認められる。

(三)  入院雑費 五万一〇〇〇円

原告がその入院中、入院雑費として少くとも一日当り一〇〇〇円、合計五万一〇〇〇円を支出したことは、容易に推認することができる。

(四)  逸失利益 一九二一万八〇五四円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故にあわなければ、昭和五九年三月に大学を卒業し、同年四月から稼働して、六七歳に達するまでの四三年間は、少くとも昭和五三年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、旧大・新大卒の男子労働者の平均賃金(全年齢平均)の年間合計三六九万五三〇〇円の年収を得ることができたものと推認されるところ、原告の右腎摘出の後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表八級一一号に該当するものの、前記1の(三)に説示した原告の生活状態に照らせば、原告は、本件事故のため、前記稼働可能と考えられる四三年間を通じて、その労働能力の少くとも二五パーセントを喪失し、その結果、少くとも前記年収の二五パーセントを得ることができなくなつたものと推認することができるので、前記年収額を基礎として右収入喪失率を乗じ、その金額からホフマン方式により中間利息を控除して、右四三年間の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると、その金額は、次の計算式により、一九二一万八〇五四円となることが明らかである。

(3,695,300×0.25×(23.5337-2.7310)=19,218,054

(係数の二三・五三三七は、就労の終期である六七歳までの年数四六年に対応するホフマン係数であり、二・七三一〇は、本件事故から就労の始期までの年数三年に対応するホフマン係数である。)

(五)  慰謝料 四七〇万円

前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を総合勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、四七〇万円(後遺障害分四〇〇万円、入通院分七〇万円)が相当である。

(六)  よつて右(一)ないし(五)の損害の合計額は二四三八万四七一〇円となり、被告らは、各自、過失相殺によりその八五パーセントを減じた金額である三六五万七七〇六円(円未満は切捨て)を原告に対し賠償すべきである。

(七)  弁護士費用 四〇万円

原告が、原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、相当額の報酬の支払を約していることは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、本件事案の性質、本訴提起に至る経過、認容額に鑑みると、被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用は本件事故時現価において四〇万円が相当である。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し各自四〇五万七七〇六円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五六年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎宏征)

別紙 交通事故現場見取図

〈省略〉

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